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Vol.63 TAKURO WEBインタビュー

いよいよその姿を現そうとしているニュー・アルバム『SUMMERDELICS』(※1)。その前段階として、今回はTAKUROにバンドの現在についてインタビューした(取材日は6月中旬)。
今年の彼は序盤にソロ作『Journey without a map』(※2)のツアーがあり、そのあとにGLAYの『GLAY HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2017 –Never Ending Supernova-』(※3)があり、そしてGLAYのアルバム制作~完成と、息継ぐ間もなかったように思える。
しかもGLAYのホール・ツアーではJIROの体調不良のために4月25日の金沢公演が延期される事態も起きた。
ただ、5月に組まれたその振替公演とは別に、当初の公演日にもJIRO抜きでライヴを敢行したことはGLAYのファン以外にも大きな話題となった。
ここではそうしたGLAYの近況全般について話してくれたTAKUROだが、その発言にはバンドや自分自身の現在と過去、そして未来を見据えたものが多く、随所に深みが感じられる内容になったと思う。


今、忙しい最中ですよね?

TAKURO:いや、そうでもないですよ。ツアーが終わって、ようやくひと段落できてる最中ですね。取材も週に2日ぐらいしか入ってないんで、精神的には大丈夫です(笑)。

そうですか。ただ、こちらからしてみると、まずTAKUROさんはソロ・プロジェクトが続いてたじゃないですか。

TAKURO:旅はしてましたね。2月からずっと……GLAYのツアーが終わる5月まで。

そのGLAYのツアーが始まるまではソロ・モードだったんでしょうか?

TAKURO:ソロ・モードね……でも思い返すと、2月のソロ・ツアーの前には10月から11月に(GLAYでの)被災地ツアーもあったし。だから、ほぼ両輪でもうグルグル回ってる感じでしたね。ソロ・ツアー中にGLAYのレコーディングもあったし、そのツアーの最後のZepp(Tokyo)の翌々日ぐらいからGLAYのツアーのリハーサルの準備に入ってたんで。だからずっと並行してる状態で、スイッチ切り替えたという感覚は、あんまりないです(笑)。でも……俺よく言いますけど、「カウント鳴ったらギターを弾くんです」というところでは、あまり変わらないですね。ただ、当たり前ですけど、GLAYに戻ったら責任が4分の1になって、気持ち的には相当楽になりました。やっぱりソロでは自分でメロを弾いて、そのあとのギター・ソロも自分で弾いて、ってやってたし。一番の違いは、ソロはインプロ(※4)が主だったので、その日どういうような曲になるか、まったく読めないままステージに立つけど。GLAYはカウントが始まれば必ず形があるから、(それを演奏するうちに)終わるじゃないですか。あれがすっごく楽でした!

(笑)そういうふうに感じてたんですね。

TAKURO:もう、自分が昔作ったフレーズに今の気持ちを乗っけて、丁寧に弾くという、それはとっても楽でした(笑)。インプロやる時は、その場その場で作曲しなきゃいけないようなしんどさもあったんで。だからGLAYの「歌舞伎で言うところの型みたいなものを大切にしながら次(の展開)につなげればいい」という演奏は、苦しくもあるんですけど、ソロに比べれば非常に楽しいものでしたね。

その意味では、やはりソロは修業の場であったわけですか?

TAKURO:修業であり、ほんとにその日のライヴがどうなるか、予想もつかないものでしたね。もちろん「いいものに」「質の高いものに」とは思ってるんだけど。それがGLAYの場合はもっとそうじゃないところで勝負してるからね。落語にたとえるなら「きっちりとできた昔からの話をいかに今日また新鮮な気持ちでお客さんに届けるか」っていう。その難しさは毎回変わらないんですけど、そういった歌舞伎とか落語とか、古典芸能に近いなぁと思いながらやってましたね。この間のツアーは。

そこで再確認したことってあります? 「GLAYってこうだな」「自分ってこうなんだな」と何か思ったことというか。

TAKURO:思いましたね。とくにギターのアンサンブルに関しては、ソロの時も「ギターに唄わせる」っていうこと。あと、これはあちこちのインタビューで言いましたけど、「一小節に情報量を詰めすぎない」ということをテーマにやってきて。で、そこからGLAYに帰ってきた時に、かつての自分が弾いてたフレーズの行儀の悪さみたいなものをあちこち見つけたんですよ。たとえば誰かが話してるのに、そこにかぶせるようなね。だからGLAYのツアーでは、誰かがおいしいコードを弾いてる時は……究極言えば弾かない、とか。おいしい音域を弾いてる時は邪魔にならない音域でサポートする、とか。そういうことに気づけるようになりました。

ええ、実はそれに近いことをこの前のGLAYのツアーを観て、感じたんです。今まではギターでどう火花を散らすかというところも大きかったと思うんですけど、今回のツアーでは「受け」や「引き」の感覚がありましたよね? で、突っ込む時は思い切り突っ込む!みたいな。

TAKURO:そうです。そのメリハリは……今回のアルバムの中に、去年のツアーや一昨年のライヴの音源とか、いろいろ入ってるんですけど。やっぱり一番近々のGLAYのツアーと比べると、自分にとっても、いつもと印象が違いますね。

そうでしょうね。あと、ツアーのギター・プレイでもうひとつ、セオリー通りの絡みをあまりしていませんでしたよね? 「エイトビートならこう弾いたら気持ちいいよな」というフレーズをそのまんま弾いてない気がしたんですよ。

TAKURO:弾いてない。そうですね。

ちょっと外してましたよね。そこはHISASHIさんのトリッキーさとはまた違った、イレギュラーな感覚をあえて盛ってるなと思ったんです。

TAKURO:それは……自分では出すまいと思っていた、ソロの時のジャズの影響かもしれないですね。もともと好きでジャズやブルースを聴いてたし、弾いてたしね。で、これはソロをやった理由でもあるんだけど……もし今後、たとえばHISASHIが「時間を長らくとって、また新たなスタイルを追求したい」ということになった時に、バンドが止まらないように、プランB、C、D、Eが必要だなと思ったんです。だから自分はソロを始めたんですね。ギター・バンドとしてのクオリティやアイデンティティを失わないように、という意味で。

ええ。ソロ活動自体がGLAYのためのものだと言ってましたもんね。

TAKURO:そう。で……今のところ俺は心配してないし、昔からGLAYのイントロのシグネチャー・ギターは絶対HISASHIのトーンだと思ってるし、今後もそうしてほしいんだけども。もし彼が今後「時間をとって考えたいんだ」っていうことになったら、「あ、じゃあこういったアプローチもあるよ」というのを出そうと、俺は思ってたんです。GLAYの中でも(演奏を)やりすぎて、ちょっとたるみそうな曲の時に「この音をぶつけてみようかな」とか「アプローチを変えてみようかな」ってやってみると、その曲の表情がガラッと変わったりするし。まあギターと音楽を突き詰めていくと、こっちの思い一発ですべてのNOがYESになることもあるからね。音楽用語で言うならアボイドノート(※5)みたいなもので……音楽的理論で言うとダメとされているけども、あえてそれを当てていくのも自分の今の思いなんだ、と。そこに自信さえあれば、原則的に考えれば、外れた音というのはなくなってしまうからね。そうしてやってみる中で、「あ、俺はもしかしたらこの曲のこと、何も知らなかったのかもしれない」「こんな表情もあるんだ!」という発見は、この短いツアーの……追加もあったから13本くらいに増えたのかな? その間にそういった発見は、たくさんありました。

ふむふむ、そうですか。だからギター・プレイについては、ある程度は意識しながらチャレンジをしてるなと思ったんですよ。

TAKURO:そうですね。でもほんとに2月のソロ・ツアーは、自分の人生の中であれほど濃密にギターと向き合えた日々はなかったので。もう……今回GLAYに帰ってきた時、一番は仲間がいる安心感があったんだけど、その仲間たちもいろいろとトライしているから、自分も思いっきりGLAYの中でトライしようと。で、それが許される雰囲気、土壌を「これはかけがえないものだな」と思いながら、やってましたね。

そうだったんですね。ではツアー全体としてはどうでした? 短い間にいろいろあったツアーだったと思いますけど。

TAKURO:今回は……よく謝ったし、よく謝られた旅でしたね(笑)。今までやった全ツアーの中でも、このツアーはなかなか忘れられないだろうな。とくにその金沢のライヴですよね。でもこれは自分がGLAYのリーダーをやっていて、前々から思ってたことなんだけど……「もしメンバーの体調が悪くなって、ステージに立てなかったらどうしよう?」ということは、どのバンドにとっても大きな課題なんですね。で、そこで俺は……「もうJIROがいなければGLAYじゃないよ、ありえない!」っていうファンの子がいるのも重々承知だけども。でもたとえば、たまたま誰かに連れられて来ていたとか、「気分転換でたまにはロックのコンサートでも行こうか」と思ったとか、あるいはお子さんがいる人だったら何とかやりくりして実家に預けて来たとか、アルバイトのシフトをやりくりしたとか……「そうやって来てくれた人たちの楽しみを奪うのも、またGLAYらしくないな」って思ったんです。

ああー。そこまで考えたんですね。

TAKURO:もちろん振替公演はやる。これは当然、責任の取り方としてやるんだけども。不完全ながら、その日GLAYはそこにいるわけだし。で、「GLAYのメンバーはTERUぐらいしか知らないよ」という人たちがいることも、スタッフと共有してる事実だからね。「<HOWEVER>(※6)さえ聴ければ俺は満足なのに、何でキャンセルなんだよ?」っていう声があるとしたら、それもまた真実だなぁって。これは俺がどのバンドにも、いつも感じてることだけどね。だから「これはやるべきだ」っていうふうに……判断したんですけど。まあ一番の理由は「自分のせいでGLAYのライヴそのものがなくなる」っていうことを、たぶんJIROが……というか、メンバーが望まないですよね。なるべくだったらなんとかして、フォローしたい。俺がケガをして、病気になっても、たぶんほかの3人はそうしてくれると思うんで。

はい。GLAYなら、そう思うでしょうね。みんなが。

TAKURO:うん。これはやっぱり、バンドの……責任、という以前に、それぞれが人との関係の中で築いた、自分たちなりのひとつの生き方なんですよね。

そうですね。生き方ですね、これは。

TAKURO:うん。まあ実際、なかなか楽しい夜になりましたよ(笑)。俺たち、ほんとピンチになればなるほど盛り上がるんで。しまいには「楽しそうだね」なんて言われましたもんね(笑)。JIROの立て看板作って、ツアー初日にたまたまチェック用に録ってたJIROのベースを聴いて、「ああ、これだったら目つぶればJIROいないこと、わかんないんじゃないか?」「2階の後ろの席だったら、ね?」とか考えながら(笑)。その一連の過程の中で、今後のリスクヘッジじゃないですけど、そういうものもたくさん見えてきたし。で……まあ、お客さんに対しての誠意の表し方はバンドそれぞれあるだろうけども。GLAYの生き方の雛形みたいなものはちょっとできたかな、っていう。

わかります。で、世間からは「GLAY、神対応!」みたいにも言われてましたけど。

TAKURO:そうですね……そう言ってくれるのはありがたいけれど。まあ、ほかの人も同じようにできるわけではないし、また次に俺たちが同じことをできるかと言ったら、これは疑問なんです。たまたまほんとに(ベースラインの)データがあったとか、JIROからのSOSが2日前ぐらいからあったから考える時間もあって、いろんな……振替公演も含めた調整もできたわけだったりもするから。ね? あんまり期待値上げられても(笑)。

そうですか。今回はこうできた、というところなんですね。

TAKURO:いや、というか、やっぱ4人いたほうがいいですよ(笑)。気づかなかったですけど、俺、すごく楽しくやるみたいで。で、お客さんも俺たちの気持ちを汲んでくれて、すごく応援してくれる。そんなライヴだったんですけど……終わったら、全員がもうグッタリ疲れちゃって。つまり4人で受け止めてるから今まで耐えられたんですね。もし3人で受け止めるのが2回3回続いたら、俺らが倒れるわ!っていう。そのぐらい、人の「気」みたいなのをものすごいスピードで毎秒ごとにやり取りしてるんだっていうのがわかりました。これは4人だからいいバランスでできてるけど、その4人分を3人で受け止めるとしんどいっていう(笑)。

そこまでのものだったとわかったんですね。で、JIROくんはその後のライヴで「GLAYがバンドとしてあることが決して当たり前なことではないと思うようになった」ということをステージで言ってましたよね。

TAKURO:言ってたね。うん。

それはきっとメンバーみんなが思ったことじゃないかと思うんです。TERUさんも「このツアーは、この4人が集まる奇跡を感じながらやってきました」と言ってました。

TAKURO:そうですね。まあ……俺、いま戦国ブームなんですけど、戦国時代なら一生は50年ですからね(笑)。そういう意味では、あとどれぐらいバンドができるか、わからないけども。やっぱり誰かがそう願うように、美しいエンディングというものに対しては、あの一件以来、もう日々考えていなければならないことのひとつとして、そこにある問題として感じるようになりましたね。

ああ、そこまで感じたんですか?

TAKURO:TERUがいつまでも一番高いトップノートを出せるとは限らないし。それこそギタリストやベーシストは、いわゆる普通の暮らしの中では到底しない動きを2時間の間ずーっとしてるわけだから、そういったコンディションのこととかも考えないとな、と思ったんですよ。あと俺、ここ5年ぐらい(ローリング・)ストーンズ(※7)の再発ものが活発だから、そのたびに買ってて。こないだ『ハバナ』(=映画『ハバナ・ムーン:ストーンズ・ライヴ・イン・キューバ2016』)(※8)も観たし、「70過ぎても、やっぱりいいなあストーンズ!」と思ったんですけど。90年の東京ドームのライヴ(映像作品『フロム・ザ・ヴォルト・エキストラ~ライヴ・イン・ジャパン - トーキョー・ドーム 1990.2.24』(※9))観て、そのキレッキレぶりに、「なんか今(のストーンズは)、ヘタだなあ」って……(笑)。

(笑)それはわかります。

TAKURO:「これは味じゃねえだろう? 老化ってあるんだな」っていう。まあ、それはそうですよ。30代40代のパフォーマンスがいかにキレキレかっていうのは、70代という比べるものがあるからこそのことで。今を生きてる俺たちには、今の状態というのは、わかんないですもんね。どこが山のてっぺんで、どこからが下り坂なのかは、わからないけども……。でも少しずつ下り坂になりつつあるということを、メンバーみんなが意識したのかもしれないですね。

あ、今回の一件によってですか?

TAKURO:それがほんとであるか、ほんとでないかは、もう20年後の俺たちと比べてみないと、わかんないことだけども……だから今度は、その時々のGLAYをどううまくコントロールしていくか。俺たちが今回の『SUMMERDELICS』を作って一番感じたことは、美しいメロディだの、よくできた詞だのっていうことは、ロック・バンドにおいてはさほど重要ではないな、と。一番はロック・バンドを始めた時のあの衝動が今も同じだけあるかどうか? これがもう、ここからの勝負のすべてだな、と。

今、そういうふうに感じてるんですね。

TAKURO:だって考えてみたら、作詞作曲して間もない19、20歳の連中の曲が1000年も聴かれる名曲になりうるわけじゃないですか? だけどバンドを長くやっていくと、「15枚目のアルバムのあの曲が1000年も聴かれるか?」というと、ちょっと疑問だもんね。キャリアはあるはずなのに。経験も積んで、曲作りやいろんなことがどんどんうまくなるのに、それでもデビュー・アルバムがやっぱり最高だなという……その秘密は何だろう?と。そう思うと、(若い頃は)未来に対する希望と絶望があったり、そのバンドを始めてまだ時間が経ってなかったり、あと人間としてもエネルギーに満ちていてね。それがすべて詰まってたのがニルヴァーナの1枚目だと思うんですよね。まあ、もうカート(・コバーン)(※10)はいないけど……ジョン・レノン(※11)もあれ以降いないから、今も生きてたらどうなってるのか、わからないけども。(ビートルズの)「ツイスト&シャウト」のあのシャウトが、50の時に同じ熱量でできるかどうかがロックンロールのほんとにすべてなんじゃないか?って今は思うようになりましたね。

はい、はい。若い時の刹那の感覚だけではなくて、大人になっても。

TAKURO:そうですね。まだファンもそんなにいなくて、小さなライヴハウスで、自分たちの将来はどんなものかもわからない時の……見えない未来に向かってシャウトしてる、あの感じと。たとえばGLAYだったら10年後の話をステージでするTERUがいるわけだから、少なくとも10年間は何かしら続けてなきゃいけないという……それはロックの持ってる破壊性とか衝動みたいなものとは真逆の約束事ですよね。そこでいかにしてちゃんと情熱を絶やすことなく、かつ、約束を守るか、っていうことなんです。

約束ね。GLAYは約束をたくさんしてきましたよね。今でももちろん。

TAKURO:だから今までのバンドになかった、相反するものを抱きしめながら、ガソリンをかぶって火事場に行く、みたいなところはありますよね。でも「それがGLAYのGLAYたるゆえんなんだろうな」って思ってるんですよ。ただ、そこで俺が一番メンバーに確認したかったのは、仕事ということを抜きにしても、どれだけの情熱でもって曲を書けるか? スタジオに来てプレイができるか?っていうことなんです。たとえば俺がクライアントに「BELOVED」(※12)とか「HOWEVER」みたいな曲を求められて、相手がきっちりと納得するような形で書いて出してきていたら、もうメンバーには愛想尽かされてるでしょうね、きっと。たぶん彼らはそこに情熱を見出さないと思う。

なるほど……。今回のツアーを観てても、過去のGLAYを回想するような場面もあったけど、大切なのはそれを未来に向かってどう生かしていくのか?というところにポイントがあった気がしました。

TAKURO:うん。だって朝が来たら、ラッキーなことに目が覚めちゃうじゃないですか? ポックリ死ぬわけじゃないし。で、自分たちが過去にやってきたことがあって、そしてそれを頼りにしながら生きてる人たちがいる。今は「その人たちの思いを汲んでやろう」というぐらい、人間の器としては広がりが出ましたよね。もう40代も半ばになって。だからバンド内では「やりたいからやる! やりたくないからやんない!」というレベルでの会話はもうしてないと思う。だけど、じゃあ過去にやったその曲を思い出再生装置のごとくお客さんの目の前で披露するというのは、たぶんGLAYにとっては違うんでしょうね。そこに今の……2017年らしい何かをきっちりと乗せて、お客さんに向ける。それが正しく曲を成長させることなんだろうな、と。JIROなんかとよく話しますけど、ヒット曲、有名曲みたいなライヴをやると、いっときパーッと「懐かしい!」とかで盛り上がるんだけども……やっぱそれを2回も続けるのは違うと思うし。そうすると新しい曲や埋もれていた曲にチャンスを与える機会がなくなってしまうからね。だから「そういうのは何周年とかのデッカいライヴ以外はやめない?」っていうのがメンバー全員一致の見解としてあるんです。今は「25歳のあの頃に表現できなかったあの曲、今だったらできる!」みたいな再発見の仕方をたくさん持ってるんですよ。「俺はあの時、人間的な器もテクニックもなかったから、この曲にはボロしか着せてあげられなかったけど、ほんとはもっと違うタイム感でやるべきだったな」とか。「GLAYの一番の魅力はTERUのあの一小節伸びるシャウトなんだから、そこでちょこんと弾くのはやめよう」とか。そういう人間としての成熟が、曲にとてもいい作用を及ぼしてるのは感じますから。だから毎回ツアーやってて、楽しいんですね。

はい。だからツアーでは、そうした昔作った曲やアルバムの中の曲もやってましたよね。「May Fair」(※13)とか「WORLD’S END」(※14)とか。

TAKURO:そうですね、現代の解釈としてね。それは一度も停滞せず、解散もせず活動をしてきたバンドの矜持というか……やっぱり地続きであるということに対しての重みというものを感じてますね。それはファンの人たちに対しての緊張感もそうだと思うし。

わかりました。で、あと訊きたいのは、今度のアルバムの豪華BOX SET版についてなんです。これには『SUMMERDELICS』に加えてライヴ音源やドキュメンタリー映像もたくさん入っていて、この数年のGLAYがどう音楽に向かってきたかがわかるものになってるようですね。

TAKURO:はい。あのー……この話は最終的にBOX SETのことにつながるんですけど。俺は今みたいに音楽が無料になるということ自体、ずいぶん前から感じていたし、YouTube最強説を唱えてからも久しいんですけど。

ええ。今の音楽全般に言える、親しまれ方についての話ですね。

TAKURO:その中でこの10年、俺が一番力を注いできたことは「音楽は絶対に人生を超えてはいけないんだ」ということなんです。やっぱり人生の主役は人間であって、その中に音楽があって、いろんな悩みや喜びみたいなものが繰り返していく。で、このBOX SETでやらなきゃいけなかったことは、何でこの曲がこうできたのか? 何で『SUMMERDELICS』の曲たちができたのか?ということをファンの人たちにきっちり知ってもらうためなんですよ。そうじゃないと、流行歌として……2017年に出たロックのアルバムの1枚として、「今」は絶えず消え去ってしまうから。今ほど曲(の存在)が軽くなってしまう時代はないと思うんです。そのぶん、あらゆる曲にはふるさとがあり、産みの親があり、そしてその産みの親にはいろんな歴史があって、出会いがあって、曲が生み出されたんだ……っていうことをちゃんと共有しないといけないんですね。今の時代は、音楽をタダで聴ける。20年前なんかよりもよっぽどたやすく、どこぞのレア盤も、撮影もOKだったりするから地球の裏側のロック・バンドのライヴのあの曲もたやすく手に入るけども。俺がひとつ確認したかったのは、汗水垂らして働いて手にしたお金でね……「身銭を切る」って言葉があるけども、その痛みを伴った音楽は聴こえ方がちょっと違うんじゃないか?というのがあって。

それはリスナーがお金を払っただけの思いを持って作品に向かうから、ですよね。

TAKURO:俺はこのBOX SETに関しての企画が出てきた時に、OKだと思ったの。このBOX SETでほんとに今必要なプロセスを踏めるな、と。90年代のGLAYの印象が強い人はTAKUROメロディ以外はGLAYとして認めない傾向にあるんだけども、何で「デストピア」(※15)が、何で「HEROES」(※16)が生まれたか? それはタイアップが決まったからではないんだ、長いことGLAYをやってきて、いろんなストーリーがあった上でできたんだ、って。そういうことをこのBOX SETによって感じてもらえれば、俺たちはまだまだやれると思うんですね。

なるほど。そこには背景と過程があると。

TAKURO:背景と過程があるんです。「音楽なんて、聴いて良ければいいだろ」って人がいるけど、「いや、俺はその意見とは違うな」と。やっぱり、どんな物語があって最後にその結末に行き着いたのかなんですよ。映画でも「犯人は彼です」「殺したのは彼です」じゃ物語がないですよね。たとえば「誰なんだろう?」っていう推理小説ならではのワクワクがあって、その中に犯罪を犯してしまうまでのプロセスがあって。それに共鳴できる人はできる、共感できない人はできない。そういうのがあってこそのアートだとするならば、俺は『SUMMERDELICS』に至るまでの過程をこのBOX SETで、少なくとも「そのGLAYの考えに一票!」って言ってくれる人たちには誠実に示したいなと。それからこのアルバムに行き着いてほしいというね。それが俺たちが今、この手軽な音楽全盛の中でここまで手をかけてやるということの意味みたいなものです。

このアルバムに至った理由があるということですね。で、この中には、先ほどのJIROくん抜きでやった金沢のライヴのドキュメンタリーも入ってるんですよね。

TAKURO:はい。あとベネチアでのTERUの<ひとり『情熱大陸』>も入ります(笑)。

(笑)そうした、いろいろな表情のGLAYが楽しめると。

TAKURO:そうそうそう! それがあって『SUMMERDELICS』になったっていう。まあ「音楽だけでいいんだ」って人は、それはそれでいろんな聴き方があると思うけど。GLAYというバンドそのものに興味がある人は、ぜひ手にとっていただきたい逸品でございます(笑)。

でも最近はこのアルバム制作と、それにソロから今回のツアーもあったことで、GLAYというバンドの捉え直しができてるような気がしますね。TAKUROさんの中で。

TAKURO:そうですね。だから……みんな、それぞれにずーっと優秀なミュージシャンであったことは間違いないんだけども。とくに3人はね。だけど俺としては、彼らのありあまる才能みたいなものをこうして世の中にきっちりと伝わるような形で出せる状況をずっと待ってたところがあります。それまでは、その力が当人にはあっても、たとえば事務所としての機能がまだ至ってなかったとか、「その早すぎるアイディアを翻訳しないで今の世の中に問うても、たぶんポカーンとされるだけだ」っていう状態だったから。だから『G4』(※17)を始めたんだけど、その<IV>を作った時に「あ、これはもう、いよいよ前夜だぞ」っていう気がしたんです。とくにHISASHIに関しては、世の中のネット環境も整い、人々が手軽にいろんな情報を手に入れられるようになった時、彼の才能は爆発するんじゃないかと思ってた。で、今まではサブカルだとか、いわゆるギークなところで「GLAYにそういう人、ひとりいるよね」と認識されてたんだけど、そこからきっちりとHISASHIという名前を持ってして、作品の評価として世の中とちゃんと戦える状況になった。「そういう時代をマネージメントが作んなきゃな」というのがこの5年の課題でしたけど、それは(時代状況との)歯車が合うとかどうとかっていうレベルじゃないんですね。もう仕事の熱量としては。GLAYが90年代を駆け抜けたんだとしたら、そこには時代の後押しがあった。今はそういったものがもっと多様化して、自分たちの立ち位置を見失いがちになるけども。少なくともこの10年は、GLAYという個性豊かな人間たちの集まりというものを、もう1回世の中に再解釈してほしかった。そこが俺の一番の興味でしたね。詞を書くよりも、曲を書くよりも。

なるほど……そういうふうに考えてたんですね。この時代の中でのGLAYのあり方について。

TAKURO:それがようやく『G4』からこの『SUMMERDELICS』の何年間かで結びついたというか、入り口に立ったという気がします。だって昨日俺、『関ジャム』(※18)観て感動したもんね! HISASHI、大したもんだなあ!って思った。言葉が足りないところもなく、言いすぎてるところもなく。きっちりと自分のやりたいままに、求められるがままにいい仕事をして、黙って帰る。侍のようだ!と思ったもん。それはMIYAVI(※19)くんもそうだし、佐橋(佳幸)(※20)さんは言うに及ばずだけど、HISASHIは素晴らしい仕事をしたなって思いました。

そうでしたね(笑)。で、さっき「入り口に立った気がする」と言われましたけど、これからまた新しいGLAYが出てくるだろうということですね?

TAKURO:そうですね、もちろん。俺も3人に負けてられないんで、頑張んなきゃいけないです。

はい、それを楽しみにしています。今回はこんなところで……どうもありがとうございました。

TAKURO:はい! 楽しかったです。話の切り口がちょっと違ってて。ありがとうございました!


※1:『SUMMERDELICS』
前作より2年8ヶ月ぶりとなるGLAYにとって14枚目のオリジナルアルバム。2017年7月12日(水)発売。メンバー全員が作詞・作曲を手掛けタイアップ曲も多数。CD Only盤(¥3000+税)、CD+2DVD盤(¥5000+税)、5CD+3Blue-ray+グッズ盤(初回生産限定・豪華BOX仕様のG-DIRECT限定Special Edition ¥22,963+税)の3つのバージョンが発売される。

※2:『Journey without a map』
GLAYのギタリストであり、メインコンポーザーを務め、リーダーでもあるTAKUROによる1stソロアルバム。B'z松本孝弘氏をプロデューサーに迎え、ブルースやジャズを基調としながらTAKUROの繊細かつ叙情的なギターサウンドで奏でられたインストゥルメンタル・アルバム。

※3:『GLAY HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2017 –Never Ending Supernova-』
2017年4月14日(金)島根県芸術文化センター「グラントワ」から5月25日(木)石川・金沢歌劇座で行われた追加公演まで、全10都市14公演(振替公演も含む)で開催されたホールツアー。4月25日(火)の金沢公演をJIROが体調不良によるドクターストップで欠席となった。TAKUROは「ボーカルのTERUやギターのHISASHI、そしてコンサート制作スタッフと何度も協議を重ねた結果、中止という選択はとらず、楽しみにしていてくれたファンの皆様へできる限りのことをしたいと思いステージに立つ所存であります。ご迷惑をおかけしますが、これからもよろしくお願いいたします」とコメントを発表。さらに、5月24日(水)に同会場での振替公演の開催と、振替公演に来られないファンへの払い戻しを発表した。

※4:インプロ
インプロビゼーションの略。即興による演奏。

※5:アボイドノート
響きが悪くなってしまうので音楽理論上、原則的には避けるべきとされている音の組み合わせ。

※6:<HOWEVER>
1997年8月にリリースされたGLAY 12枚目のシングル。GLAY初のミリオンセラーを記録した代表曲。

※7:(ローリング・)ストーンズ
ロックの代名詞とも言える世界的バンド。1962年にイギリス・ロンドンで結成され、以来、半世紀以上にわたって、一度も解散することなく活動を続ける。

※8:『ハバナ』(=映画『ハバナ・ムーン:ストーンズ・ライヴ・イン・キューバ2016』)
2016年にキューバの首都ハバナで開催されたローリング・ストーンズのフリーコンサートの模様を収録したドキュメンタリー映画。

※9:『フロム・ザ・ヴォルト・エキストラ~ライヴ・イン・ジャパン - トーキョー・ドーム 1990.2.24』
1990年2月24日に東京ドームで開催されたローリング・ストーンズのライブ映像を収録したDVD/Blue-ray。2017年3月31日に日本限定で発売された。1990年2月14日から27日にかけて東京ドームで全10公演が行われたうちの8公演目を収録している。

※10:カート(・コバーン)
バンド「ニルヴァーナ」のボーカル・ギター。1989年に1stアルバム「ブリーチ」を発表。1991年の2ndアルバム「ネヴァー・マインド」が大ヒットを記録し、グランジ・ミュージックが世界的なムーブメントとなる。かねてから患っていたうつ病と薬物過剰摂取が引き金となり1994年に自ら命を断った。享年27歳。

※11:ジョン・レノン
世界で最も有名なロックバンド・ビートルズのメンバーであり、主にボーカル・ギターを担当。ソロでも数々の名曲を遺した。1980年12月8日、ファンを名乗る男性に射殺された。享年40歳。

※12:「BELOVED」
1996年8月発売、GLAY9枚目のシングル。TAKUROが作詞・作曲したGLAYを代表するラブソング。

※13:「May Fair」
1998年5月発売の4thアルバム「pure love」に収録された楽曲。シングルカットはされていないが非常に人気が高い。

※14:「WORLD’S END」
2007年1月発売の9thアルバム「LOVE IS BEAUTIFUL」に収録された楽曲。作詞・作曲はHISASHI。

※15:「デストピア」
「SUMMERDELICS」の7曲目に収録。作詞・作曲はHISASHI。TVアニメ「クロムクロ」第1クールオープニングテーマ。ダークな世界観の歌詞ロックンロールナンバー。

※16:「HEROES」
「SUMMERDELICS」の8曲目に収録。作詞・作曲はTERU。テレビ東京系アニメ『ダイヤのA -SECOND SEASON-』オープニングテーマ、テレビ神奈川 第97回全国高等学校野球選手権神奈川大会中継テーマソング。爽やかな歌詞と疾走感あふれる演奏で、アッパーな仕上がりとなっている。

※17:『G4』
2006年7月発売GLAY33枚目のシングル。TAKURO作詞・作曲「ROCK'N'ROLL SWINDLE」「誰かの為に生きる」「恋」「LAYLA」収録。2011年10月発売の『G4・II -THE RED MOON-』以降はメンバー全員が1曲ずつ作詞・作曲を担当している。現在は『G4・IV』まで発売されている。

※18:『関ジャム』
『関ジャム 完全燃SHOW』は関ジャニ∞と古田新太が毎回様々なアーティストをゲストに迎え、一夜限りのジャムセッションやトークを繰り広げる音楽バラエティー番組。テレビ朝日で放送中。2017年6月11日放送回には、佐橋佳幸、MIYAVIとともにHISASHIが出演してギタートークを繰り広げた。

※19:MIYAVI
日本のロックミュージシャン。バンド活動を経てソロデビュー。独特なスラップ奏法で世界的な人気を誇り、「サムライギタリスト」の異名を持つ。ワールドツアーで海外進出も積極的に行なう他、アンジェリーナ・ジョリー監督作品『不屈の男 アンブロークン』で映画にも出演。

※20:佐橋(佳幸)さん
ギタリスト・音楽プロデューサー。1983年にバンド「UGUISS」のメンバーとしてデビュー。解散後はセッションギタリストとして活動。作詞・作曲・プロデュースも行ない、さまざまなミュージシャンとも活動を行っている。

取材・文/青木 優