Vol.73 TAKURO WEBインタビュー
GLAYが2月1日に公式アプリをスタートさせ、約3か月が経った。常に、“ファンファースト”のスタンスで活動を続けてきた、GLAYの“理想”を形にしたものが、このアプリともいえる。音楽オーディオとしての役割を果たし、これまでの音源はもちろんの事、MUSIC VIDEOやライヴ映像、書籍に至るまで、まさにGLAYの全てがストレスなくチェックできる。ファンとの距離をより“近く”するこのアプリに、並々ならぬ思いを持っているのがGLAYのリーダーTAKUROだ。求められる側と求める側の関係を、少しでもよくしたいというバンドの考えを具現化し、ファンの手元に届ける事ができた今、改めてこのアプリに対する思い、ファンへの思い、そして来年の25周年についても語ってもらった。
自主レーベルで、ここまでのアプリを作るというのは、アーティストとしては、ある意味理想的な形だと思います。
TAKURO:2006年に、GLAYの版権、原盤、映像の権利、そしてファンクラブなどを前事務所から僕の個人会社が全ての権利関係を買収できたという事が、一番大きいです。やっぱりそれまでの業界の形、慣習という人間が作ったシステムを改善、改革していかなければいけないのに、そのスピードの遅さにGLAYは合っていませんでした。テクノロジーの進化に敏感なHISASHIは「メンバーのリクエストに応えられないバンドなんて嫌だ」と当時から言っていて、自分達がいつまでもコンテンツでいてはダメで、コンテンツホルダーないし、今回のアプリのような、プラットホームになるしかないと思っていました。それがメンバーの期待にも応えられて、かつユーザーのためになると思いました。俺は24時間GLAYの事と、自分の人生をどうデザインするかを考えていて、それは第三者にはわからないし、そこまで考えるように求められないし、無理な事で。メンバー同士の関係はメンバー同士にしかわからないし、いくら言葉で説明しても100%理解してもらえない。だから人に任せるのも限界だと思ったし、俺らを取り巻く環境という名の制度も疲弊していたので、自分達で全ての権利を持ち、活動した方が、それが一番ファンの人たちが好きなGLAYの形になると思いました。その思いの最新形がこのアプリです。やっぱりメンバーが一番大切にしているのは、GLAYとファンの人たちが活発に交流できる場だと思うし、それに対して組織やシステムに望むのは、アーティストとしての自由な発想を遮られることなく、それはお金という意味でも、時間という意味でも、好きなだけGLAYというものを謳歌したいという事です。レコード会社の都合に翻弄されないバンドでありたいし、もうそういう時代ではない気もしていて。音楽を取り巻く状況が厳しくなっていく中で、このままではミュージシャンは食えないと悲観しているだけではなくて、顕微鏡で見たときに、道はもっともっと無数にあるんだということを、次の世代の人たちに伝えたい。
色々時代が変わってきて、そこに取り残される事なく、自らが道を切り拓いて進んでいるGLAYの姿は、他のアーティスには眩しく映っていたと思います。
TAKURO:そんなに難しい話ではないと思っていて。このあいだ、TERUが若手バンドから相談に乗ってくれと言われ、俺も一緒に行きましたが、最終的にTERUはベロベロに酔っ払って(笑)、「いい活動がしたければ、いい歌を歌って、お客さんに喜んでもらえて、■▼〇※◎@~以上!」って、最後は何を言っているのかわからなかったのですが(笑)、でも結構真理をついているなと思って。ミュージシャンが本当に迷った時やるべきことは、いい曲を書いて、いい歌を歌って、いいパフォーマンスをすれば何の問題もない。それが世界にひとつしかないものであれば、必ず誰かがそれを手にとって、大切にしてくれる。それをマッチングさせるのは難しい仕事かもしれないけど、この広い世界の中で、諦めなければその出会いは必ずある。この20年間くらいは、色々なところからとにかく不安の声が聞こえてくるけど、俺は一度も不安に思ったことがないです。あの天才的なボーカルと才能あふれるメンバーがいるバンドを預かっていて、これで食えないって言ったら、音楽の神様に怒られます(笑)。だから聴きたい人と、聴かせたい人をくっつければいいんだと。すごくシンプルな事で、このアプリもそうです。例えば昨日ファンになったから、会報の第1号を見たいと言われたら、見せたいだけで、もう廃盤になってしまったアルバムを、ブックオフやメルカリではなく、こっちできちんといい音で提供できるなら、やりますよね。
内容も含め、このアプリの構想は、どれくらい前から練っていたのでしょうか?
TAKURO:話が出たのは2年以上前で、その前からファンの人たちから、昔の作品の再販のリクエストがあって、でも在庫を抱えるリスクを考えると、作る数が読めなかったり、そこで躊躇する部分を、なんとか解消できないかと考えたのが最初でした。だったらいっそのこと、出版社、レコード会社、チケットサイトを一本化することができたら、それが一番の時間の短縮と経費の削減になるし、かつファンの人たちの思いも、このアプリ内でタグ付けできれば、クレーム対応もすぐできるだろうと思いました。
このアプリに関してのミーティングにはメンバーも積極的に参加して…。
TAKURO:ミーティングという感じではなかったです(笑)。メールにわけのわからないURLが貼ってあって、「こんな感じ」みたいな(笑)。そんなメンバーの色々な意見、現実的なところから、途方もないアイディアまで一つずつ吟味していって、落とし込んだら本当にシンプルになりました。巷では、本屋さんやレコード店が大変だという声がある中で、やっぱり今を生きる人たちが、手に取りやすいのは本当にスマホやタブレットなんだという現実を、まざまざと見せつけられ、感じながら作業を進めていきました。今またアナログレコードが人気という話も聞きます。確かにレコードは温かい音がする、でも子供たちの世代がスマホを置いて、レコードに戻るということは多分ないと思う。それをまず認めるところから始めました。
来年は25周年ですが、それまでにこのアプリをリリースしたかったという思いは強かったですか?
TAKURO:そこにはこだわっていませんでしたが、でも1日も早くという気持ちはありました。ファンの人たちの声に応えられない歯がゆさは、常々感じています。このアプリの中には2つテーマがあって、まずデビューから応援してくれている人にとって楽しいものである、そして新しくファンになってくれた人たちにとっては、最高の入口である事という、一見矛盾しているかのような2つテーマを、ひとつのアプリにどう落とし込めるかという部分が一番難しかった。そして大体のサイトはGLAYのある部分しか欲しがらないけど、でもここに来ると、GLAYの、もしかしたら今まで手軽に見せられなかった部分、例えばアコギ一本で作ったデモ音源が聴けたり、GLAYのより深いところを知りたい人たちにとっては、たまらないものにしたかった。でもライトなファンの人たちにとっても、ここでGLAYの全ての歴史を知る事ができますよという、この二つを一つにするデリケートな作業が大変でした。つまり、昔からファンでいてくれている人達にとっては、音源、映像ともにすでに持っているものです。ライフスタイルが変わっていく中、その便利さはさらに進化して、昔のものをどこからか引っ張り出してきて、開けて、プレイヤーに入れて、という行為はしなくなると思いました。さっきも言いました、その便利さに人は勝てないと思い、映像も音源も全てここに詰め込みました。
一度便利さを経験すると、不便なことは避けたいと思うのが、人ですよね。
TAKURO:だからこのアプリには全部入れないといけないんです。それが命題です。なぜなら、入っていないのであれば「じゃあ聴かなくていいや、観なくていいや」ってなります。でも俺たちにとっては、どの作品もその時々に全力を尽くしたものだから、愛して欲しいんです。その作品たちが聴きたい時、観たい時にそこにないと、「じゃあいいや」という選択をされてしまう事が、作り手にとっては一番怖いことです。その恐怖を克服するには、ここに来たらGLAYの全てがありますという状態にしなければいけません。
いかにストレスを取り除き、快適さを提供できるかが大事ですよね。
TAKURO:プレイボタンさえ押してくれれば、作ったものに関しては自信があるので、そこにたどり着くまでのストレスを、失くし続けるのがテーマですよね。これから色々なものがもっと便利に、手軽になるだろうし、問題も立ちはだかるとは思いますが、ライヴに来てくれれば、聴いてくれれば、好きになってもらえるはずだし、この音楽表現が、あなたの人生にとって、とても豊かなものになるはずなのに、という自信を持ってステージに立っています。だからそこまでの道をいかにスムーズにするかというのが、一番大切です。
スタンプ式電子チケット機能というのも、チケット不正転売の防止につながりますね。
TAKURO:電子チケットという選択肢もあるけど、今ここで新しいメディアと俺たちはケンカはしません。無視もしない、でも競争はしたい、それは自分たちが鍛えられるから。電子チケットももちろんやりますが、でも長年ファンクラブに入っている人たちは、写真入りのチケットが欲しいんです。そこにも応えたいので、チョイスは示します。俺たちは両方ともいいと思っていて、電子チケットと紙のチケットって同一線上に見えるかもしれないけど、俺にとっては、俺はローリングストーンズ(※1)も好きだけど、ラーメンも好きですって言ってるような感覚に近いです。電子でも紙でも、それを使ってライヴ会場に入って、席に着くという行為自体は同じでも、全然別のものだから、両方丁寧にやりましょうと。世の中がどんどん電子チケット化していくからといって、紙のチケットをなくしたりはしません。例えば、チケットを持っている人が、どうしても都合が悪くなったので、友達にチケットを譲りたいという、人として当たり前の行動も無視できません。買った本人しか入れません、というのはあまりにも乱暴すぎる。俺は息子に「久保家の男子たるもの紳士であれ」って教えてるので、それは紳士的じゃない。だから自分が紳士でいなければ、息子にも胸を張って言えないんです(笑)。今は不寛容社会すぎるので、俺は可能性をたくさん示したいと思います。人生の答えはひとつじゃないという事を、ここまで大げさに話すつもりはないけど、アプリも含めてGLAYの活動全般で、それはメッセージとしてあります。あなたのライフスタイルはあなたのものですよっていう。配信で聴くもよし、でも俺たちはCDも丁寧に作ります。歌詞カードを見ながら聴きたいというライフスタイルに、俺達は最大限リスペクトを払いますという、GLAYという生き物の、生き様の一部のようなものです。
メンバーが情熱を傾けたGLAYの音楽、ライヴを、いかに気持ちよくファンに届ける事ができるか、ですよね。
TAKURO:その一点です。このアプリは最小のチームでやっているので、ユーザーからのクレームも含めての声が、すぐにメンバーまで上がってくるので、そこでまた改善のスピード感が90年代とは全然違うのがいいと思います。
そういう部分でも、ファンとGLAYは今までも近かったけど、より近くに感じるという事ですよね。
TAKURO:そうです。すごくビジネス的になっているかもしれませんが、結局GLAYが素晴らしい音楽を作り出せる環境をキープする事と、ファンの人たちの声に最大限耳を傾けて、それに応えていきたいという気持ちと、両方を実現できる究極の形がこのアプリなんです。
スタートして約3ヶ月が経ちました。ファンの方の反応は届いていますか?
TAKURO:届いています。例えば、去年出した曲を聴いて、ファンになりましたという人にとっては、GLAYの過去の曲を聴く事は大変な労力が必要になります。でも聴くシングル、アルバムの順番なんて関係ないんですよね。自分たちが24年というキャリアを積んだおかげで、その体験を新しいファンの人たちにもしてもらえる。今まで一緒に歩んで来たファンの人たちとの感覚とは全く違う表現で、俺たちに俺達の音楽を聴いた感想を伝えてくれます。デビューからファンになってくれた人たちが、結婚や出産、育児などでGLAYの音楽から離れている時期がある。それで少し時間に余裕ができた時、もう一回聴いてみようかなと思っても、押し入れからCDやDVDを引っ張り出してくる必要がない(笑)。ポチッとやるだけで、離れていた時期の映像も音楽も流れるし、場所もとらない。面白いのが、一緒に歩んできたファンの人たちの中には、俺達が20代の時に出した音楽の意味が、その時はいまひとつ理解できなかったけど、40歳を過ぎて本当の意味がわかったし、自分なりの解釈ができました、という声もいただいています。ある意味、とても幸せな音楽体験だけど、今の10代の人たちが、昔の曲の感想を書いて送ってくれたり、このアプリに限らず、YouTubeなどのメディアや新しいテクノロジーによって、逆に俺らの方が、新しいファンに近づかせてもらっているという感覚です。
応援してくれている人との距離が縮まって、新しいファンも増えて、来年の25周年が賑やかになりそうですね。
TAKURO:盛大になりそうなんですよ。メンバーともミーティングを重ねていて、ライヴハウスから大きいハコ(※2)まで、1年半くらいかけて、応援してくれた人たちみんなに届くような、一番ファンの人たちが望んでいるライヴの形を、実現させたいと思っています。それと10年前くらいから取り組んでいる、コンサートの前後も楽しんでもらえる施策をやりたいです。例えば北海道物産展やイベントがあるとか、どこかでGLAY展があったり、カフェがあったり。 GLAYの東京でのライヴに行こうって、地方から来た人たちが、旅自体がGLAYを通じて楽しめるようなものにしたい。考え方はこのアプリと一緒ですよね、ひとつのもので色々と楽しめるという部分では。土、日がライヴなら、金曜日から月曜日までも楽しんでほしい、それでまた気持ちよく日常に戻ってほしい、という事を考えて25周年にやるべき事を 練っています。ひとつ面白い事を考えていて、アルバム『HEAVY GAUGE』(※3)が来年発売から20周年なので、その完全再現ツアーをやったらいいんじゃないかという話があって。 他のツアーはちょっと…という人でも、『HEAVY GAUGE』ツアーなら行ってみたいと思ってくれる人も多いのでは、と思いました。
このアプリによって、自主レーベルでのひとつの完成形を提示したGLAYのミュージシャンとしてのスタンスには、これからますます注目が集まりそうですね。
TAKURO:今の「ラバーソウル」とGLAYの関係というのは、あくまでもエージェントとプレイヤーで、事務所と所属バンドではないんです。エージェントとしてラバーソウルが提案する、GLAYの音楽が広がっていくためのアイディアを受け、それに対して100%応えるバントであり、あらゆる表現を受け止め、世に伝えるという事です。この関係は並走状態というか、上下関係では決してない。活動に悩んでいるアーティストは、疑問解消のために自分達から色々な人に聞かないのも悪いし、どこかに所属しているのであれば、そこの人たちが説明しないのも悪い。自分達が作った楽曲なのに、その権利を明確にしないというのは、もう時代遅れだと思う。今はネットを検索すれば法律関係の事も、わかりやすく出ているし、アーティストが自分で勉強できる時代です。昭和の時代とは価値観も変わってきているので、いつまでも旧態依然としたシステムの中で悩んでいる時間がもったいないです。俺達はメンバーと30年近くGLAYというバンドをやってきて、人がやる気になるスイッチって、そんなに多くない事がわかりました。自分のため、誰かのため、あとは世の中のため、これ以外の事に対しては、なかなか頑張れない。誰かのためというのも、よほど信頼をおいてる人や家族のためなら力が出るけど、やっぱり組織のために頑張るミュージシャン、若者は、今はいないと思います。組織が頑張れば、世の中の改善につながると言われたら、頑張ろうと思う若者はいるかもしれない。出世の意味が、昭和の時とは違ってきていると思う。自分の夢の実現のためなら、いくらでも頑張れる、信頼がおける人たちのため、世の中がよくなるなら頑張れる、でもレコード会社のためには頑張れない、事務所のためには無理です、という感じになっているのではないでしょうか。俺達も、これからもどんどん自分達とファンのために色々な事にチャレンジしていきたい。
文・田中久勝
※1:ローリングストーンズ
ロックの代名詞とも言える世界的バンド。1962年にイギリス・ロンドンで結成され、以来、半世紀以上にわたって、一度も解散することなく活動を続ける。
※2:大きいハコ
1万人規模のアリーナから数万人規模のドーム球場やスタジアムまで含むスケール感の会場。
※3:『HEAVY GAUGE』
GLAY、メジャー5作目のアルバム。1999年10月リリース。「GLAY EXPO '99 SURVIVAL」の前後に収録されたこともあり重厚な作風が際立ったアルバム。売上枚数は235万枚でGLAYのアルバムでは歴代2位。
自主レーベルで、ここまでのアプリを作るというのは、アーティストとしては、ある意味理想的な形だと思います。
TAKURO:2006年に、GLAYの版権、原盤、映像の権利、そしてファンクラブなどを前事務所から僕の個人会社が全ての権利関係を買収できたという事が、一番大きいです。やっぱりそれまでの業界の形、慣習という人間が作ったシステムを改善、改革していかなければいけないのに、そのスピードの遅さにGLAYは合っていませんでした。テクノロジーの進化に敏感なHISASHIは「メンバーのリクエストに応えられないバンドなんて嫌だ」と当時から言っていて、自分達がいつまでもコンテンツでいてはダメで、コンテンツホルダーないし、今回のアプリのような、プラットホームになるしかないと思っていました。それがメンバーの期待にも応えられて、かつユーザーのためになると思いました。俺は24時間GLAYの事と、自分の人生をどうデザインするかを考えていて、それは第三者にはわからないし、そこまで考えるように求められないし、無理な事で。メンバー同士の関係はメンバー同士にしかわからないし、いくら言葉で説明しても100%理解してもらえない。だから人に任せるのも限界だと思ったし、俺らを取り巻く環境という名の制度も疲弊していたので、自分達で全ての権利を持ち、活動した方が、それが一番ファンの人たちが好きなGLAYの形になると思いました。その思いの最新形がこのアプリです。やっぱりメンバーが一番大切にしているのは、GLAYとファンの人たちが活発に交流できる場だと思うし、それに対して組織やシステムに望むのは、アーティストとしての自由な発想を遮られることなく、それはお金という意味でも、時間という意味でも、好きなだけGLAYというものを謳歌したいという事です。レコード会社の都合に翻弄されないバンドでありたいし、もうそういう時代ではない気もしていて。音楽を取り巻く状況が厳しくなっていく中で、このままではミュージシャンは食えないと悲観しているだけではなくて、顕微鏡で見たときに、道はもっともっと無数にあるんだということを、次の世代の人たちに伝えたい。
色々時代が変わってきて、そこに取り残される事なく、自らが道を切り拓いて進んでいるGLAYの姿は、他のアーティスには眩しく映っていたと思います。
TAKURO:そんなに難しい話ではないと思っていて。このあいだ、TERUが若手バンドから相談に乗ってくれと言われ、俺も一緒に行きましたが、最終的にTERUはベロベロに酔っ払って(笑)、「いい活動がしたければ、いい歌を歌って、お客さんに喜んでもらえて、■▼〇※◎@~以上!」って、最後は何を言っているのかわからなかったのですが(笑)、でも結構真理をついているなと思って。ミュージシャンが本当に迷った時やるべきことは、いい曲を書いて、いい歌を歌って、いいパフォーマンスをすれば何の問題もない。それが世界にひとつしかないものであれば、必ず誰かがそれを手にとって、大切にしてくれる。それをマッチングさせるのは難しい仕事かもしれないけど、この広い世界の中で、諦めなければその出会いは必ずある。この20年間くらいは、色々なところからとにかく不安の声が聞こえてくるけど、俺は一度も不安に思ったことがないです。あの天才的なボーカルと才能あふれるメンバーがいるバンドを預かっていて、これで食えないって言ったら、音楽の神様に怒られます(笑)。だから聴きたい人と、聴かせたい人をくっつければいいんだと。すごくシンプルな事で、このアプリもそうです。例えば昨日ファンになったから、会報の第1号を見たいと言われたら、見せたいだけで、もう廃盤になってしまったアルバムを、ブックオフやメルカリではなく、こっちできちんといい音で提供できるなら、やりますよね。
内容も含め、このアプリの構想は、どれくらい前から練っていたのでしょうか?
TAKURO:話が出たのは2年以上前で、その前からファンの人たちから、昔の作品の再販のリクエストがあって、でも在庫を抱えるリスクを考えると、作る数が読めなかったり、そこで躊躇する部分を、なんとか解消できないかと考えたのが最初でした。だったらいっそのこと、出版社、レコード会社、チケットサイトを一本化することができたら、それが一番の時間の短縮と経費の削減になるし、かつファンの人たちの思いも、このアプリ内でタグ付けできれば、クレーム対応もすぐできるだろうと思いました。
このアプリに関してのミーティングにはメンバーも積極的に参加して…。
TAKURO:ミーティングという感じではなかったです(笑)。メールにわけのわからないURLが貼ってあって、「こんな感じ」みたいな(笑)。そんなメンバーの色々な意見、現実的なところから、途方もないアイディアまで一つずつ吟味していって、落とし込んだら本当にシンプルになりました。巷では、本屋さんやレコード店が大変だという声がある中で、やっぱり今を生きる人たちが、手に取りやすいのは本当にスマホやタブレットなんだという現実を、まざまざと見せつけられ、感じながら作業を進めていきました。今またアナログレコードが人気という話も聞きます。確かにレコードは温かい音がする、でも子供たちの世代がスマホを置いて、レコードに戻るということは多分ないと思う。それをまず認めるところから始めました。
来年は25周年ですが、それまでにこのアプリをリリースしたかったという思いは強かったですか?
TAKURO:そこにはこだわっていませんでしたが、でも1日も早くという気持ちはありました。ファンの人たちの声に応えられない歯がゆさは、常々感じています。このアプリの中には2つテーマがあって、まずデビューから応援してくれている人にとって楽しいものである、そして新しくファンになってくれた人たちにとっては、最高の入口である事という、一見矛盾しているかのような2つテーマを、ひとつのアプリにどう落とし込めるかという部分が一番難しかった。そして大体のサイトはGLAYのある部分しか欲しがらないけど、でもここに来ると、GLAYの、もしかしたら今まで手軽に見せられなかった部分、例えばアコギ一本で作ったデモ音源が聴けたり、GLAYのより深いところを知りたい人たちにとっては、たまらないものにしたかった。でもライトなファンの人たちにとっても、ここでGLAYの全ての歴史を知る事ができますよという、この二つを一つにするデリケートな作業が大変でした。つまり、昔からファンでいてくれている人達にとっては、音源、映像ともにすでに持っているものです。ライフスタイルが変わっていく中、その便利さはさらに進化して、昔のものをどこからか引っ張り出してきて、開けて、プレイヤーに入れて、という行為はしなくなると思いました。さっきも言いました、その便利さに人は勝てないと思い、映像も音源も全てここに詰め込みました。
一度便利さを経験すると、不便なことは避けたいと思うのが、人ですよね。
TAKURO:だからこのアプリには全部入れないといけないんです。それが命題です。なぜなら、入っていないのであれば「じゃあ聴かなくていいや、観なくていいや」ってなります。でも俺たちにとっては、どの作品もその時々に全力を尽くしたものだから、愛して欲しいんです。その作品たちが聴きたい時、観たい時にそこにないと、「じゃあいいや」という選択をされてしまう事が、作り手にとっては一番怖いことです。その恐怖を克服するには、ここに来たらGLAYの全てがありますという状態にしなければいけません。
いかにストレスを取り除き、快適さを提供できるかが大事ですよね。
TAKURO:プレイボタンさえ押してくれれば、作ったものに関しては自信があるので、そこにたどり着くまでのストレスを、失くし続けるのがテーマですよね。これから色々なものがもっと便利に、手軽になるだろうし、問題も立ちはだかるとは思いますが、ライヴに来てくれれば、聴いてくれれば、好きになってもらえるはずだし、この音楽表現が、あなたの人生にとって、とても豊かなものになるはずなのに、という自信を持ってステージに立っています。だからそこまでの道をいかにスムーズにするかというのが、一番大切です。
スタンプ式電子チケット機能というのも、チケット不正転売の防止につながりますね。
TAKURO:電子チケットという選択肢もあるけど、今ここで新しいメディアと俺たちはケンカはしません。無視もしない、でも競争はしたい、それは自分たちが鍛えられるから。電子チケットももちろんやりますが、でも長年ファンクラブに入っている人たちは、写真入りのチケットが欲しいんです。そこにも応えたいので、チョイスは示します。俺たちは両方ともいいと思っていて、電子チケットと紙のチケットって同一線上に見えるかもしれないけど、俺にとっては、俺はローリングストーンズ(※1)も好きだけど、ラーメンも好きですって言ってるような感覚に近いです。電子でも紙でも、それを使ってライヴ会場に入って、席に着くという行為自体は同じでも、全然別のものだから、両方丁寧にやりましょうと。世の中がどんどん電子チケット化していくからといって、紙のチケットをなくしたりはしません。例えば、チケットを持っている人が、どうしても都合が悪くなったので、友達にチケットを譲りたいという、人として当たり前の行動も無視できません。買った本人しか入れません、というのはあまりにも乱暴すぎる。俺は息子に「久保家の男子たるもの紳士であれ」って教えてるので、それは紳士的じゃない。だから自分が紳士でいなければ、息子にも胸を張って言えないんです(笑)。今は不寛容社会すぎるので、俺は可能性をたくさん示したいと思います。人生の答えはひとつじゃないという事を、ここまで大げさに話すつもりはないけど、アプリも含めてGLAYの活動全般で、それはメッセージとしてあります。あなたのライフスタイルはあなたのものですよっていう。配信で聴くもよし、でも俺たちはCDも丁寧に作ります。歌詞カードを見ながら聴きたいというライフスタイルに、俺達は最大限リスペクトを払いますという、GLAYという生き物の、生き様の一部のようなものです。
メンバーが情熱を傾けたGLAYの音楽、ライヴを、いかに気持ちよくファンに届ける事ができるか、ですよね。
TAKURO:その一点です。このアプリは最小のチームでやっているので、ユーザーからのクレームも含めての声が、すぐにメンバーまで上がってくるので、そこでまた改善のスピード感が90年代とは全然違うのがいいと思います。
そういう部分でも、ファンとGLAYは今までも近かったけど、より近くに感じるという事ですよね。
TAKURO:そうです。すごくビジネス的になっているかもしれませんが、結局GLAYが素晴らしい音楽を作り出せる環境をキープする事と、ファンの人たちの声に最大限耳を傾けて、それに応えていきたいという気持ちと、両方を実現できる究極の形がこのアプリなんです。
スタートして約3ヶ月が経ちました。ファンの方の反応は届いていますか?
TAKURO:届いています。例えば、去年出した曲を聴いて、ファンになりましたという人にとっては、GLAYの過去の曲を聴く事は大変な労力が必要になります。でも聴くシングル、アルバムの順番なんて関係ないんですよね。自分たちが24年というキャリアを積んだおかげで、その体験を新しいファンの人たちにもしてもらえる。今まで一緒に歩んで来たファンの人たちとの感覚とは全く違う表現で、俺たちに俺達の音楽を聴いた感想を伝えてくれます。デビューからファンになってくれた人たちが、結婚や出産、育児などでGLAYの音楽から離れている時期がある。それで少し時間に余裕ができた時、もう一回聴いてみようかなと思っても、押し入れからCDやDVDを引っ張り出してくる必要がない(笑)。ポチッとやるだけで、離れていた時期の映像も音楽も流れるし、場所もとらない。面白いのが、一緒に歩んできたファンの人たちの中には、俺達が20代の時に出した音楽の意味が、その時はいまひとつ理解できなかったけど、40歳を過ぎて本当の意味がわかったし、自分なりの解釈ができました、という声もいただいています。ある意味、とても幸せな音楽体験だけど、今の10代の人たちが、昔の曲の感想を書いて送ってくれたり、このアプリに限らず、YouTubeなどのメディアや新しいテクノロジーによって、逆に俺らの方が、新しいファンに近づかせてもらっているという感覚です。
応援してくれている人との距離が縮まって、新しいファンも増えて、来年の25周年が賑やかになりそうですね。
TAKURO:盛大になりそうなんですよ。メンバーともミーティングを重ねていて、ライヴハウスから大きいハコ(※2)まで、1年半くらいかけて、応援してくれた人たちみんなに届くような、一番ファンの人たちが望んでいるライヴの形を、実現させたいと思っています。それと10年前くらいから取り組んでいる、コンサートの前後も楽しんでもらえる施策をやりたいです。例えば北海道物産展やイベントがあるとか、どこかでGLAY展があったり、カフェがあったり。 GLAYの東京でのライヴに行こうって、地方から来た人たちが、旅自体がGLAYを通じて楽しめるようなものにしたい。考え方はこのアプリと一緒ですよね、ひとつのもので色々と楽しめるという部分では。土、日がライヴなら、金曜日から月曜日までも楽しんでほしい、それでまた気持ちよく日常に戻ってほしい、という事を考えて25周年にやるべき事を 練っています。ひとつ面白い事を考えていて、アルバム『HEAVY GAUGE』(※3)が来年発売から20周年なので、その完全再現ツアーをやったらいいんじゃないかという話があって。 他のツアーはちょっと…という人でも、『HEAVY GAUGE』ツアーなら行ってみたいと思ってくれる人も多いのでは、と思いました。
このアプリによって、自主レーベルでのひとつの完成形を提示したGLAYのミュージシャンとしてのスタンスには、これからますます注目が集まりそうですね。
TAKURO:今の「ラバーソウル」とGLAYの関係というのは、あくまでもエージェントとプレイヤーで、事務所と所属バンドではないんです。エージェントとしてラバーソウルが提案する、GLAYの音楽が広がっていくためのアイディアを受け、それに対して100%応えるバントであり、あらゆる表現を受け止め、世に伝えるという事です。この関係は並走状態というか、上下関係では決してない。活動に悩んでいるアーティストは、疑問解消のために自分達から色々な人に聞かないのも悪いし、どこかに所属しているのであれば、そこの人たちが説明しないのも悪い。自分達が作った楽曲なのに、その権利を明確にしないというのは、もう時代遅れだと思う。今はネットを検索すれば法律関係の事も、わかりやすく出ているし、アーティストが自分で勉強できる時代です。昭和の時代とは価値観も変わってきているので、いつまでも旧態依然としたシステムの中で悩んでいる時間がもったいないです。俺達はメンバーと30年近くGLAYというバンドをやってきて、人がやる気になるスイッチって、そんなに多くない事がわかりました。自分のため、誰かのため、あとは世の中のため、これ以外の事に対しては、なかなか頑張れない。誰かのためというのも、よほど信頼をおいてる人や家族のためなら力が出るけど、やっぱり組織のために頑張るミュージシャン、若者は、今はいないと思います。組織が頑張れば、世の中の改善につながると言われたら、頑張ろうと思う若者はいるかもしれない。出世の意味が、昭和の時とは違ってきていると思う。自分の夢の実現のためなら、いくらでも頑張れる、信頼がおける人たちのため、世の中がよくなるなら頑張れる、でもレコード会社のためには頑張れない、事務所のためには無理です、という感じになっているのではないでしょうか。俺達も、これからもどんどん自分達とファンのために色々な事にチャレンジしていきたい。
※1:ローリングストーンズ
ロックの代名詞とも言える世界的バンド。1962年にイギリス・ロンドンで結成され、以来、半世紀以上にわたって、一度も解散することなく活動を続ける。
※2:大きいハコ
1万人規模のアリーナから数万人規模のドーム球場やスタジアムまで含むスケール感の会場。
※3:『HEAVY GAUGE』
GLAY、メジャー5作目のアルバム。1999年10月リリース。「GLAY EXPO '99 SURVIVAL」の前後に収録されたこともあり重厚な作風が際立ったアルバム。売上枚数は235万枚でGLAYのアルバムでは歴代2位。