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Vol.72 HISASHI WEBインタビュー

昨年リリースしたアルバム『SUMMERDELICS』(※1)についてTAKUROにインタビューした時に、アルバムの大きな柱のひとつとして挙げたのが「HISASHIが持っている非常にニッチな世界や、ダークな世界を、今度はGLAYとしてきちんとフォーカスして世の中に伝えていく」事だった。確かに『SUMMERDELICS』とそれを引っ提げたツアーでは、HISASHIワールド全開で、GLAYが今在るべき姿、次に進むべきステージをファンに提示した。そんなHISASHIはGLAYの活動と並行して、これまで声優アーティストやアニソンシンガーへの楽曲提供やプロデュースを積極的に行ってきた。またネット界隈でも一目置かれる存在でもあり、さらには『関ジャム』(※2)のギタリスト特集に何度も呼ばれたり、先日も『タモリ倶楽部』(※3)の『デアゴスティーニ(※4)特集』に出演したりと、テレビ界でも注目されている。そんなHISASHIという“才能”の頭の中を、改めてのぞいてみたいという衝動に駆られ、インタビューした。

今日は“HISASHI脳”を明らかにする、解体新書的なインタビューです。まずGLAYの曲を書く時と、他のアーティストに楽曲提供する時は、使う感性は全く違うのでしょうか?

HISASHI:全く違いますね。GLAYの曲を書く時は、自分たちのことだったり、取り巻く環境だったり、流れ行く世相を吐き出せる場所という感覚でやっています。他の方に書く時は、やっぱり俺が作るという事には意味があると思っていて。例えばアニメの主題歌や、ツアーのタイトルソングを書く時は、すでに“側”が決まっているので、そのフィールドの中での制作なので、非常にやりやすいです。逆に「好きに作ってください」と言われると困ります。自分が思っている事や過去のこと、これからのこと、そういうものを言葉にするのは難しいなっていう。相手が決まっている場合は、その人の持つ雰囲気を音にすればいいと考えています。

例えばバンドじゃないもん!の曲を書くとなると、彼女たちのことを想像するとHISASHIさんの頭の中で、何となく曲が響いてくる感じですか?

HISASHI:時代の中での、彼女たちの生き生きとしたキャラクターというか、そういうものは音になりやすいです。それが今度書いた「BORN TO BE IDOL」(※5)(5月9日発売)で、その真逆の感じの曲が「恋する完全犯罪」(※6)です。先日彼女達のコンサートを観に行きました。飽きずに最後まで楽しめるんですよ。どれもリード曲のような感じで、やはり作家陣に恵まれているなと思いました。みんなに観て欲しいコンサートだなって思いました。やっぱりバンドサウンドは気持ちいいですね。

「BORN TO BE IDOL」と「恋する完全犯罪」は両A面シングルですけど、確かに全く雰囲気が違う2曲ですね。

HISASHI:最初に「恋する~」方を書いて、明るく見えるけど、実は秘めた狂気を持っているんじゃないかなとか、無邪気な女の子同士のイタズラが犯罪に繋がっちゃったみたいな、そういうテーマで歌ったら、雰囲気が違っていいんじゃないかと思いました。

「恋する完全犯罪」、名曲だと思います。

HISASHI:やっぱり俺が聴いて育ったポップスとか歌謡曲の影響は、すごく大きいなと再認識しました。

HISASHIさんがはじめて手がけたアニソン、遠藤ゆりかさんの「モノクローム・オーバー・ドライブ」(※7)(2014年)も名曲だなと思いますが、「恋する完全犯罪」もいいですよね。今おっしゃったように歌謡曲、ポップスのフレーバーがふんだんに使われていて、疾走感があってたまらないですよね。海外の人にもウケそうです。

HISASHI:そうですね。ヨーロッパ的なマイナーメロディアスみたいな感じが好きだったんですよね。

アイドルシーンは気になりますか?

HISASHI:アイドルは最近携わることがよくあって、好きなグループもいますし、色々と掘り下げたりしますけど、やっぱりプロデューサーの力が大きいなと思います。「この曲エグいな、誰が作ってるんだろう」って思うと、やっぱりすごいプロデューサーが手がけたりするので、そういうのを紐解いていくと面白いです。アイドルってみんな、その人推しとかがあるじゃないですか。でも俺はそのアイドルが好きだから好きになるのではなくて、曲とか雰囲気とか、完成度の高さに興味があって好きになるので、色々聴いています。

今はアイドルも楽曲の部分で、HISASHIさんを始めとして、色々な作家陣に発注して、他との差別化を図ろうとしていますよね。

HISASHI:そうですね。それこそ秋元康先生(※8)のところは、やっぱり毎回コンペで決まっていると思いますが、常に新しいところにいっているなと、もう感心しかないですね。誰よりも攻めてるんじゃないかなと思いますし、その分賛否もあると思うし、でも日本のエンターテイメントとして、すごく高いところにあるなと思います。

他のアーティストから楽曲提供の依頼が来た時は、そのレコード会社のディレクターやマネージャーと、綿密な打ち合わせをするんですか?

HISASHI:アニメの曲を書く時はしますね。テーマと全く別角度の曲を当てるというのもアリだと思いますが、僕がアニソン世代というか、身近に感じていたので、やっぱりその世界観を壊さない曲を作りたいという気持ちが強いです。

打ち合わせの時は、そこで色々なキーワードが飛び交った方が、想像力が湧きますか?

HISASHI:やりやすいですね。TVアニメ『クロムクロ』(※9)の時は、まさにここ(事務所会議室)で打合わせをしていて、話している間に曲ができあがるというか、テンポと明るさ、言葉のチョイスとか、どれくらい深い世界観かとか、そういうことは話しをしていく中でどんどんできていきます。

依頼された曲と、GLAY曲とでは、曲ができあがる早さには差がありますか?

HISASHI:バラバラなんですよね。「彼女はゾンビ」(※10)はすぐできました。変拍子も必然的に最初からあったし、シリアスをコミカルにというか、そうやってGLAYはやってきたなというのが自分の中にあったので、それを音や言葉にしたのは、久しぶりかもしれないですね。

やっぱりGLAYと並行して、興味があるアーティストへの楽曲提供というのは、これからも積極的にやっていきたいですか?

HISASHI:そうですね。ずっとGLAYばっかり見ていると、同じ影しか残さないというか。違うアーティストに参加すると、光の当たり方が違うんですよね。そうすると自分の影の落ち方も違ってきて、こういう手法や面があるんだって気づかされます。

キャリアが長くなれば長くなるほど、そういう思考は必要だと思いますか?

HISASHI:必要になってくると思います。やっぱり固定概念みたいなものが、邪魔をしていると思います。だから僕やJIRO、TERUがシングル曲を書くのもアリだし、その固定概念が定着してしまう事を、メンバーが一番嫌っています。

成功体験は大切ですが、それにこだわるのも、良し悪しですよね?

HISASHI:でもそこも大事なんですよね。GLAYの魅力というのは、メンバーの仲の良さや雰囲気だと思うし、そういうものを敢えて排除する必要もないし。だからやっぱり僕らの代表曲である「HOWEVER」(※11)とか「BELOVED」(※12)のような曲も、年齢に応じてトライしていきたいという気持ちはあります。あれを超えたいというか、今の年齢でああいうメッセージを歌いたい。GLAYというバンドは、元々ハードな曲とミディアムバラード両方ができるという事は、高校生の頃から変わっていません。90年代は、ミディアムバラードの印象が強くなりましたが、常に尖った手法やメッセージを伝えるということと、この二つが必要な要素なんですよね。

HISASHIさんはあまりテレビに出ないGLAYのメンバーの中でも、テレビで引っ張りだこですが、これも“役割”なんでしょうか?HISASHIさん自身はテレビ出演を楽しんでいるのでしょうか?

HISASHI:プレッシャーですね(笑)。呼んでいただいてありがたいなという気持ち、プラス役にハマっていたかな、求められていることについて、自分の佇まいが正解であったかな、というのは毎回心配です。

地上波で視聴者と対峙するのと、ネット民と向き合うのとは違う感覚ですか?

HISASHI:違いますね。テレビは気がついたらついているという感じの存在なので、プロフェッショナルな世界のイメージです。俺は楽器を持っていないと太刀打ちできないので、色々調べてから臨みます。でもお昼の情報番組とかではないし、トリッキーなテーマで話すことは得意なので、これからも呼ばれたら出たいなと思います。テレビが情報源、テレビ基準という人も多いと思うし、僕らも北海道の片田舎で、情報源といえばテレビでした。大きなメディアなので、そこから少しでもGLAYに興味を持ってくれる方がいる可能性があるのであれば、これからもやっていきたい。

ネット界もざわつかせて、テレビでもざわつかせるHISASHIさんは、やはりGLAYの中では特異な存在ですよね?

HISASHI:好きなことや面白いことをやっているのだけなので、手法が増えただけだと思います。テレビの人が僕を選んだりとか、動画サイトが身近になったり、パソコンの普及も大きかったかもしれません。僕が近づいたというよりは、周りの人が近づいてきてくれたというイメージです(笑)。

『SUMMERDELICS』でHISASHIワールドが炸裂した感はありますが、考えてみるとHISASHIさんが曲を書き始めたのは「Cynical」(※13)(1995年)からで、もうデジタル色を前面に出して、その存在感を残していました。

HISASHI:90年代はメンバーのカラーを出すというよりは、バンドの印象を強く打ち出していたので、僕の曲はカップリングやアルバムで、GLAYにない面を作っていました。僕らはプロデューサーの佐久間正英さん(※14)と一緒にやってきたので、コンピュータベースのレコーディングは、割と早く取り入れた方だと思います。『SUMMERDELICS』のコンサート演出のアイディアも、前半三曲はやらせてもらって、ああいうことも実は初めてやりました。

結構ショッキングな映像が使われていました。

HISASHI:結局バランスなんですよね。これはいいけどこれはダメみたいな、そういう感覚が自分の中でちゃんとあって。だからメンバーも任せてくれたのだと思う。オープニングからホラーやサスペンスを連想させる映像を使って、大きな空間の中で行われるショーなので、そういうスリリングで、意味ありげなオープニングは結構好きですね。

今まで見た事ないGLAYの世界に、一瞬で引き込まれました。

HISASHI:GLAYって昔からU2(※15)みたいだなって思っていて。U2ってアルバムを出す度にテーマが違っていて、コンサートのオープニングで、今回のU2は違うと思っても、最後はいつもの感じのU2になっていて、GLAYもそんな感じなんですよね。『HEAVY GAUGE』(※16)とか結構重厚なアルバムを出しても、最後はみんなで歌おうみたいな感じになったり。僕らはコンサートの最初に、“今のGLAY”はこんな感じです、というのを観てもらうだけでもいいかもしれない。最後までそれを引きずって、無理矢理ホラーで終わるのも全然違うと思うし、最後はいつのようにみんなで『I’m in Love』(※17)を歌って終わるみたいな。

オープニングが遠い過去だった、みたいな。

HISASHI:そうなんですよね。印象って結構最後の方のものが残ると思うので。僕がコンサートで一番好きなのは、オープニングでメンバーが出てくるシーンなんです。一瞬で空気が変わるというか、だから結構オープニングSEも今までたくさん作っていて、作品化されていないのもたくさんあります。

HISASHIさんの中で、自分の世界観を表現するためには、言葉とメロディと、映像も欠かせないものですか?

HISASHI:そうですね。俺が使う映像はギミックというか、そういう感じのものが多くて。雰囲気ものの、美しい映像も使ったりもしますけど、そうじゃないちょっとエグいものとかそういうのが好きで、割と物議をかもすくらいのものをやりたいなと思っています(笑)。
『微熱Ⓐgirlサマー』(※18)は、青春のラブソングみたいな曲なので、あの頃の甘酸っぱさをちょっとだけエロティックなものに置き換えたら、GLAYのファンの方はどこまで許してくれるのかとか考えたり。あまり許してくれなかったけど(笑)。爬虫類を使ったものとかは評判が良くなったです(笑)。

やっぱり評判は気にするんですか?

HISASHI:でも終わった事ですからね。俺的には今回かなり踏み込んだなという達成感はあります。ファンの方は、もうあるものとして楽しむというか、観る側としてもすごくプロフェッショナルだと思います。本当にみんな楽しんでるなっていうか。

観ている方もプロ、というのはいい関係ですね。

HISASHI:一緒に育っている感じですね。でもそういう甘やかされた環境というのはよくないとも思っていて、アメリカでコンサートをやった時とかは、反応がバラバラだったので、もっともっと頑張らなければという気持ちになりました。

これからますますHISASHIワークスは増えていきそうな感じですね。

HISASHI:そうですね。この前『hide TRIBUTE IMPULSE』(※19)(6月6日発売)の作業が終わったのですが、こういうプロジェクトに単独で参加すると、意外な発見があったりして。これはGLAYに持っていける要素だなって思ったり。

やはり何をやっていても、GLAYに持って帰ったら面白いかも、という感覚があるんですね。

HISASHI:そうですね。バンドの中では、世界の面白いものを紹介するようなキャラクターだと思っているので。例えばダブステップ(※20)みたいな音楽を入れたらカッコいいよ、とか。GLAYに合う合わないはあると思うけど、そういう役割なんだなと思っています。

文・田中久勝

※1:アルバム『SUMMERDELICS』
前作より2年8ヶ月ぶりとなるGLAYにとって14枚目のオリジナルアルバム。2017年7月12日(水)リリース。7月24日付けオリコン週間CDアルバムランキングで1位を獲得した。

※2:『関ジャム』
関ジャニ∞の音楽バラエティ番組。関ジャニ∞が毎回様々なアーティストをゲストに迎え、一夜限りのジャムセッションやトークを繰り広げる音楽バラエティー番組。HISASHIは2017年6月11日、佐橋佳幸、MIYAVIとともに出演。

※3:『タモリ倶楽部』
1982年放送開始の長寿番組。すべてロケで行なわれる「流浪の番組」。さまざまな社会現象をタモリとゲストで掘り下げる。番組内のコーナー『空耳アワー』も人気。HISASHIは2018年4月6日放送回に出演。

※4:デアゴスティーニ
HISASHIは毎週少しずつパーツが届く「週刊バック・トゥ・ザ・フューチャー デロリアン」に取り組んでいることを公言している。『タモリ倶楽部』のディアゴスティーニ特集に出演した。

※5:「BORN TO BE IDOL」
2018年5月9日リリースのバンドじゃないもん!のダブルAサイドシングル。往年の斉藤由貴を彷彿とさせる王道アイドルソング。

※6:「恋する完全犯罪」
2018年5月9日リリースのバンドじゃないもん!のダブルAサイドシングル。HISASHIは「今回の話を頂き数日でサラリと書き上げた」という。

※7:遠藤ゆりかさん・「モノクローム・オーバー・ドライブ」
歌手・声優。2014年リリースの「モノクローム・オーバー・ドライブ」をHISASHIが作詞・作曲・プロデュースを手がけた。テレビ東京系アニメ『Z/X IGNITION(ゼクス・イグニッション)』のエンディングテーマ。

※8:秋元康先生
日本を代表する作詞家。AKB48グループや坂道シリーズのプロデューサーを務める。

※9:TVアニメ『クロムクロ』
2016年4月~9月放送。HISASHI作詞・作曲の楽曲「デストピア」「超音速ディスティニー」が主題歌。

※10:「彼女はゾンビ」
2016年1月27日リリース『G4・IV』収録。HISASHI作詞・作曲。「シン・ゾンビ」のもとになった曲。

※11:「HOWEVER」
1997年8月6日リリース、12thシングルにしてGLAYにとっては初のミリオンセラーとなった代表曲。

※12:「BELOVED」
1996年8月リリース、GLAY9枚目のシングル。TAKUROが作詞・作曲したGLAYを代表するラブソング。

※13:「Cynical」
1995年11月リリース、GLAY7枚目のシングル「生きてく強さ」収録曲。

※14:佐久間正英さん
ロックバンド、四人囃子の元メンバーで、プロデューサーとしてBOØWYやザ・ブルーハーツ、GLAY、JUDY AND MARYらを手がけた。

※15:U2
1980年デビューのアイルランドのロックバンド。売上も観客動員も世界最大規模の成功を収めるロックバンド。グラミー賞の獲得数22作品は“ロック・バンド史上最多”。音楽性を変化させながらメッセージ性の強いコンセプチュアルな作品を発表する一方、スタジアム級の大規模会場で映像や演出を多用したワールドツアーを成功させている。

※16:『HEAVY GAUGE』
GLAY、メジャー5作目のアルバム。1999年10月リリース。「GLAY EXPO '99 SURVIVAL」の前後に収録されたこともあり重厚な作風が際立ったアルバム。売上枚数は235万枚でGLAYのアルバムでは歴代2位。

※17:『I’m in Love』
GLAY、メジャー4作目のアルバム『pure soul』収録曲。1998年7月リリース。オセロ、長島三奈、鈴木紗理奈、山本シュウ、中山加奈子、富田京子、せがわきりなどがコーラスで参加。ライブでもラストナンバーとして演奏されることが多い。

※18:『微熱Ⓐgirlサマー』
2015年5月25日発売のシングル「HEROES/微熱Ⓐgirlサマー/つづれ織り~so far and yet so close~」収録曲。HISASHIが作詞・作曲を手掛け、コンタクトのアイシティ夏のキャンペーンCMソングにも起用された。

※19:『hide TRIBUTE IMPULSE』
X JAPANのギタリスト hideの没後20年のトリビュートアルバム。HISASHI×YOW-ROW「DOUBT」を収録。

※20:ダブステップ
イギリス産のダンスミュージック。レゲエから派生したダブの手法と、90年代に生まれた2ステップ等のダンスミュージックを組み合わせたジャンル。アーティストではスクリレックスが世界的な人気を獲得している。